2023.10.10
障子
障子はとても魅力的な存在だと思います。外から入ってくる直線的な光を、障子に貼られた和紙によって、一瞬にして幻想的な淡い光の空間に変えてくれるからです。その障子が纏う光は、明るすぎず、暗すぎず、光の粒子の存在を感じ、曖昧な輪郭を持ち、そしてグラデーションのように優しくて、静謐な光です。私はそのような光に出会うとき、そのふるまいにいつも魅了されてしまいます。五感の全てでその光を感じ、凛とした美しさを感じる瞬間でもあります。障子に貼られる和紙の種類は色々なものがあります。よく使用している紙、糸入り障子の落水はその表情から光の濃淡をつくり、その濃の部分が影となり自らを際立たせています。影のつくりだすシルエットで物の形や芸を楽しむ、昔からの遊び「影絵」のように、障子の和紙に映し出された緑の木々や葉っぱを、想像力の世界で楽しむ。そんな影がつくりだす夢幻もまた素敵だなと思えます。また障子を光の壁として設計することもあります。開口部の建具としての障子ではなく、壁としてとらえ、和紙の表情によって圧迫感をなくしています。光を感じる向こう側に何かあるのではないかという期待感を生み、目には見えない奥行を空間にもたらします。また夜になれば、障子を大きな照明器具として見立て、間接照明などを配置することで月明りのような理想的な光になります。光と陰影によって、障子はその魅力を存分に発揮してくれます。障子の放つ空気感は、とても穏やかに私たちの奥深くにある潜在的な部分に語りかけ、それと共鳴することで本質的な心の調和がもたらされます。その瞬間を想像し、つくり出すことが設計の楽しみの一つです。