深山知子一級建築士事務所・レトノ 深山知子一級建築士事務所・レトノ

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2025.10.31

harmonia(ハルモニア)

調和という言葉の語源は、音楽にあります。もともとギリシャ語の harmonia(ハルモニア)結びつきやつながりを意味する言葉です。異なる音がぶつかるのではなく、それぞれが自らの位置を知り、わずかに揺らぎながら重なり合う。その瞬間に生まれるひとつの波形それがハーモニー=調和の原点です。このハーモニーを最も深く感じるのは、人の声(ソプラノ、アルト、テノール、バス)です。数人でひとつの歌をうたうとき、私たちは、どの声を少し際立たせ、どの声をそっと支えればよいかを、言葉にせずとも自然に感じ取っています。すべてが同じ音量で響けば、美しさは失われます。わずかな強弱、息の長さ、間(ま)の取り方その微かな違いが波動を共鳴させ、心地よい響きを生み出す。そしてその響きに身をゆだねるとき、私たちは居心地のよさを感じるのです。建築における自然との調和も、音楽と同じだと思います。私たちが本能的に求めている心地よさとは、際立ちと調和が全体性として存在し、それらは決して分離せず、その一体性の中に生まれてくるのだと思います。

調和という言葉には、どこか詩的で、哲学的な響きがあります。建築に置き換えると、とらえどころのない概念のようにも思えますが、抽象度を下げること、つまりその語源(調和=harmonia)に立ち返ることで、調和という言葉の本質的な意味を、あらためて見出すことができるのではないでしょうか。