深山知子一級建築士事務所・レトノ 深山知子一級建築士事務所・レトノ

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2025.6.7

富岡製糸場

群馬県にある富岡製糸場を訪れました。そこには、近代日本が歩み始めた雰囲気が確かに残されていました。西洋の技術と日本の手仕事が出会い、女性たちが社会の第一線で働く場として生まれたこの製糸場は、産業技術の発展だけでなく、国際交流や女性の社会進出といった多角的な意義を持つ、歴史的な遺産です。
建物群もまた、驚くほど美しい状態で保存されています。赤レンガの繰糸所や倉庫、工女たちの宿舎、いずれも19世紀末の産業建築の姿を今に伝える貴重な存在です。
建築の特徴はその建材です。使用されている赤レンガは、群馬の赤土を使って現地で焼かれたもので、モルタルも赤土に消石灰、そして「のり」を加えた独特の和風モルタルが用いられていました。工場建築でありながら、どこか温かみが感じられます。それはきっと、地元の土を使い、地元の職人が手を動かしたからなのでしょう。

それに関して思いだしたのは、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの言葉です。彼は「建築は土地と調和すべき」として、有機的建築(Organic Architecture)を提唱し、日本に建てた帝国ホテルでも、風土に根差した素材を大切にしました。帝国ホテルのレンガもまた、地元で一枚一枚丁寧に焼かれていたそうです。
場所が持つ力と、建築家や職人のそれぞれの想いが調和した富岡製糸場の佇まい。そこには長い時間を経たからこそ放たれる独特の存在感があり、時間が生み出す真の豊かさを感じさせてくれる建築でした。